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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(行ツ)56号 判決 1967年3月30日

千葉県印旛郡印西町大森三八五五番地

上告人

影山芳郎

右訴訟代理人弁護士

関原勇

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被上告人

東京国税局長

吉国二郎

右当事者間の東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第一七八四号課処分取消請求事件について、同裁判所が昭和三九年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人関原勇の上告理由について。

論旨は、上告人の昭和二九年度における事業所得の算定につき、同年一〇月から一二月に至る時間の売上高を推算した課税庁の措置を相当と認めた原判決を失当という。

しかし、原判決の引用する第一審判決が適法に認定した事情のもとにおいて、当事者間に争いのない同年一月から九月に至る期間における販売差益率と同年一〇月から一二月に至る期間における仕入高とによつて後者の期間の売上高を推計したのは、右両時期の間に販売差益率にめだつほどの相違を生ずべき特別の事由の存在の認められない本件においては、決して不合理ということはできない。論旨は上告人のような営業において収益のつねに変動するのは経験則上明らかといい、右特別の事由の存否の認定について非難するが、到底肯認しがたい。そして所論違憲の主張は単なる法令違反の主張に過ぎず、原判決には何等所論の違法はない。それ故、論旨は採用に値しない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

○昭和三九年(行ツ)第五六号

上告人 影山芳郎

被上告人 東京国税局長

上告代理人関原勇の上告理由

一、本件の争点は、上告人の収支申告を是とするか、また被上告人の右申告に対する行政庁としての認定――更正処分を是とするかにある。

ところで、第一審判決が認定し、原判決が認容した更正処分認定額三一二、五九六円の根拠は、所謂「推計計算」の方法によるものである。

推計計算が許容される場合は、これを厳格にしなければならない。何故なら、この方法が準用される場合においては、税務官吏は、実証的合理的な審査をやめて、形式的に適用出来るこの方法に流れ易いからである。

ところで、本件の場合、行政庁たる被上告人は、上告人の売上高について、前期と後期の差益率を意識的に違えさせ、推計計算を行い、前記のような過大な金額を認定したものである。

個人営業たる上告人のような事業は、その収益が常に変動するものであることは、経験則上容易に認められるところであり、これを逆に「特別の事由の存否」に係らしめ結局は上告人の申告を無視することは、課税衡平の原則を掲げながら実質において否定するものである。

被上告人たる行政庁の処分は、憲法第二十九条の原則に反するものであり、これを認容した原判決も同様の違法を犯すものであつて破棄を免れない。

以上

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